人生初めての入院生活は検査と退屈の日々だった。
最初の2日ほどは相変わらずの貧血状態でボーっとしていた時間が多かったが次第にその状態が解消されるのに比例して時間を持て余すことが多くなっていった。また貧血状態がひどいという事で有無を言わさず個室への入院を余儀なくされたということもあってほとんど他の患者と顔を会わすことがなかったこともそうした時間が増える一因だったかもしれない。もっともあまり他人と積極的にコミュニケートすることが得意ではないことを鑑みるとそれはあまりデメリットではなかったかもしれないが。
もうひとつ退屈を生み出す要因は絶食であったということだと思う。入院したその日から退院する3日前までの9日間一切食事をすることができずIVHで高カロリー輸液をひたすら注入される状態が続いたが食事ができないことがこれほどまでに辛い事かと改めて感じた。それは単に食べられないということの苦痛ではなく食事をするという行為が生活のリズムを生み出すものであり、それがなくなることでこれほどまでに一日のリズムを作る事が難しくなるという事の辛さであった。まあこのことは食べるということに対する認識を改めるよいきっかけになったことで自分にとってはよい経験ではあった。
そうした退屈な時間も検査のある日は多少時間がつぶれるという意味でありがたかった。入院中に行った検査を列挙すると胃カメラ→小腸造影(小腸X線)→大腸ファイバー(2度目)→注腸X線という順番で検査が行われた。おそらくクローン病を患ってる患者にとってはスタンダードな検査であり多くの方が受けてる検査である。この他にも腹部のCTを1度、IVHの確認のためのレントゲンが1度、採血が3度ほどあった。まあ入院生活が初めてなので当然どの検査も初めての経験で(採血も2度ほどしか経験がなかった)検査の前にはビビり根性丸出しに検査の説明に来てくれる看護師にしつこいぐらいに検査内容を聞くこちらの姿は多分滑稽に映ってたのではないかと今になって思う。
これらの検査の中でやはり一番辛かったのは小腸造影である。前日ドクターに検査の詳しい内容を聞き鼻から管を通すだのそこからバリウムを入れるだの決して楽な検査ではない事は知らされていたがそれでも去り際「まあ麻酔するからそんな辛いことはないと思うよ。」という言葉に多少安堵していた。ただそれでも検査当日は朝からどこか落ち着かない事は自覚していた。いつも病室に来たときはお互いにバカ話をしてこちらの鬱屈した気持ちを和らげてくれていた看護師のkさんともその日はあまり話もせず「体調悪いんですか?」と余計な気を使わせてしまうような状態であった。それでも前日のドクターの言葉を信じ検査室まで送ってくれたkさんともそこに向かうまでの間くだらない会話をするぐらいには平静になっていた。
検査室はやはり静かであった。入るなり検査技師に「これに着替えて待っていてください。」と声をかけられ検査服を渡される。手早く着替え近くにあったいすに腰掛け待っている。すぐそばに相当長い管が置いてあったのが目に入った。これを鼻に入れるのかと思うと多少げんなりしたが「まあしょうがねえなあ」とそのときには軽く達観した気持ちになっていた。検査技師が再び現れる。おもむろに「検査の内容についてお聞きになってますか?」と言葉をかけてくる。その唐突さに刹那どきりとしたが「はい。一応聞きました。」と答え続けて「麻酔してもらえるんですよね?」と聞き返した。しかし検査技師は「いや。麻酔はしません。検査中体をご自分で動かしてもらわないといけないので。」とつれない返事。その瞬間「いや、先生は麻酔するって仰ってたんですけど。」というこちらを気にすることもなく「いやー。しないですよ。」と検査の準備をしながら軽い笑みを浮かべながら答える。それを聞きなぜか絶望的な気持ちになり「あー、そうですか。」と弱々しく答える以外の言葉の選択肢が浮かばなかった。そんなこちらの気持ちを察することもなく「このゼリー、吸ってもらえますか。」とチューブに入ったゼリーを渡される。もはや検査技師の言いなりに時を進めるしかない僕は言われるがままに行動する。続けてチューブが鼻に差し込まれる。「奥までいってぶつかったら吸ってください。」という言葉を受け鼻を吸うがうまく通らない。「鼻の穴細いね。」と隣で検査技師がぼそっと言葉を漏らすがこちらはそんな言葉に反応する余裕などない。ともかくも無理やり鼻の穴をチューブが通りのどのあたりに近づくと「ごっくんしてください。」とガキを諭すような口調で言葉をかけてくる。またしても言われるがままつばを飲み込むと同時にチューブがのどを通過する。「おえー」と何かがのどの奥から出てきそうな感覚があったが実際には吐き気止めを飲んでたので何かを吐くということもなかった。その代わりに無意識に涙が一筋流れてきた。
そのあと検査は1時間半続いたがあまり記憶に残っていない。一応言われるがままに体を動かしバリウムが入ってくる気持ち悪さと圧迫感は朧げながら記憶しているし検査後「この検査は腸管系の検査では一番きついからね。」と検査技師から言葉をかけられたことも何となく覚えているがそれも夢のような気さえしていた。検査中もう一人の担当医であるYドクターも検査の様子を見に来ていたらしいがそのこともこちらは全く覚えていなかった。検査後疲れ果て病室のベッドで横になっていた僕に検査結果を伝えにSドクターが来たとき「昨日の説明と違うやん。」と一応文句を言ってみたが「あっ、そうやったん。あれ麻酔したはずやけどなあ。」ととぼけてるのか本気で知らなかったのか定かではない表情を浮かべられるとこちらもどうでもいい気持ちになっていた。
結局すべての検査を終え『大腸型クローン病』という診断を受けた。横行結腸に狭窄が見られるがその他の部分に関してはそれほど深刻な状況にはない。食事に関してはいろいろ制約をしてもらわなければならないが病気の程度としてはそれほど深刻なものではないという説明を受けた。そして当初は1ヶ月はかかるかもしれないと言われていた入院期間も12日間で退院することになった。(ちょうどゴールデンウィークに入るときで病院も休診という事情もありましたが)
こんな感じで僕の人生最初の入院生活は終わった。正直クローン病という病気の煩わしさは入院中よりも退院してからの方が強く感じている。好きなものを食べられないストレス、いつ再発するかわからないというストレス、周りになかなか理解されないというストレス。もちろんそれが病気を再発するリスクファクターになることを理解していてもなかなか割り切れないもどかしさを感じてさらにストレスがたまる。もっと穏やかに緩やかに生活できればいいのだろうけどそんな術も持っていない。でもうまく病気と折り合いをつけて生きていくしかないと自分を納得させともかく毎日時間をすごしている。
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3回にわたりくだらない文章にお付き合いいただいた方ありがとうございました。m(_)m
このブログを見てくださっていた方はその後の不摂生がたたり僕がイレウスで入院していたことはご存知だと思います。まあ今はコンディションもよくなってきておかげでこうやってブログに昔の事を書こうという気力も出てきました。
これまではあまりクローン病について書いてこなかったんですがこれからは多少頻度を増やして患者として他の方にも病気のことを知ってもらいたいなあと思ってます。
ほかにも興味をもったり、あるいは関心がある事についてできるだけ毎日(あくまでもできるだけ(笑))更新したいと考えているのでお暇なとき覗いてください。お願いしますm(_)m
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